賃貸契約の前に大家さん自身が審査ブログ:19-7-22
初老の医師はわたくしに告げた。
「あー、肺に穴があいてますね」
いやいや、そんなあっけらかんと言われても…と、
通常ならツッコミを入れたい場面だ。
今ままでに味わったことの無い激痛に耐えながらも、
自分の肺に穴なんてあいていないと信じたい気持ちとは裏腹に、
心も身体も震えていた。
「故郷のご両親にも連絡を」
すべてが初めての体験だった。
故郷を離れ、大学に入学して2ヶ月。
早くも緊急事態だった。
数時間後、父と母がかけつけてくれた。
わたくしは泣いた…
初めての手術が決まり、数本の管が身体に刺さり、
不安が脳に刺さった状態だったから…
「病気なんだから、しょうがないだろう。
頑張れ。大丈夫、手術すればすぐに治る」と
父は何度も頷いた。
まるで自分にも大丈夫だと暗示をかけているかのように…
手術が終わり、
父も母も仕事があるので故郷へ戻っていった。
散々、これでもかというほど励ましの言葉を浴びせられた。
「もう大丈夫だから。早く帰りなよ」
そんな強気な言葉をわたくしは最後に投げた。
本当はまだまだ不安だらけで、
誰でもいいから早く助けてくれ…と願っていた。
何とか退院となり、一人でアパートまで帰った。
久し振りのワンルームの部屋はひっそりとしていた。
「あれ」
一歩、中へ踏みこんで、わたくしは思わず声を漏らした。
入院前とはテレビの大きさが違っていた。
残されていた一枚のメモには、
「退院おめでとう。目が悪くならないようにテレビを買っておきました。
古いテレビは持って帰りますね。母より」
心臓に穴があきそうなくらい嬉しくて、感謝をした。
わたくしは医者に救われたのでなく、両親に救われたのだと思った。